申請の基礎
補助金の不正受給と罰則:補助金適正化法第29〜32条の刑罰、補助金ごとの取消・公表の決まりと、雇用関係助成金の「5年間不支給・2割加算・公表」
偽りその他不正の手段で補助金を受け取ると、補助金適正化法第29条で5年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金(併科あり)の対象になり、法人にも罰金刑が科されます(第32条)。持続化・新事業進出ものづくり・省力化の公募要領が定める取消・返還・公表と、雇用関係助成金の共通要領が定める不正受給の扱い(返還額の2割の加算、5年間の不支給、公表)を並べ、会計検査院の指摘の例も紹介します。
偽りその他不正の手段で国の補助金を受け取ると、補助金適正化法第29条により5年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方の対象になります。法人の代表者や従業員が業務に関して違反したときは、法人にも罰金刑が科されます(第32条)。
刑罰とは別に、補助金の側では交付決定の取消・加算金つきの返還・公表があり、厚生労働省の雇用関係助成金では返還額の2割の加算と5年間の不支給があります。
不正受給に対する3つの層
補助金適正化法の罰則(第29〜32条)
| 条 | 対象になる行為 | 刑 |
|---|---|---|
| 第29条第1項 | 偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受けた者 | 5年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金、又は併科 |
| 第29条第2項 | 情を知って交付した者 | 同上 |
| 第30条 | 第11条に違反して補助金等を他の用途に使用した者 | 3年以下の拘禁刑若しくは50万円以下の罰金、又は併科 |
| 第31条 | 遂行の一時停止命令に違反した者、法令に違反して成果の報告をしなかった者、第23条の報告をしない・虚偽の報告・検査の拒否・質問への不答弁や虚偽の答弁をした者 | 3万円以下の罰金 |
| 第32条 | 法人・人の代表者、代理人、使用人その他の従業者が業務に関して第29〜31条の違反をしたとき | 行為者のほか、法人・人にも各条の罰金刑 |
新事業進出・ものづくり補助金の公募要領(1.3版)は第29条の刑を「5年以下の懲役」と書いていますが、2025年6月1日施行の条文では「拘禁刑」です。
罰則のほかに、返還を命じられた補助金・加算金・延滞金を納めないときは、同種の補助金の交付の一時停止や相殺(第20条)、国税滞納処分の例による徴収(第21条)があります。取消・返還・加算金(年10.95%)のしくみは補助金の返還を求められるときで扱っています。
補助金ごとの決まり
| 制度 | 公募要領に書かれた処分 | 不正の例として挙げているもの |
|---|---|---|
| 持続化(第20回) | 交付決定の取消・返還命令(加算金の徴収を含む)、不正の内容の公表等。法令違反が明らかな場合は罰則のほか、採択取消、交付決定取消や交付済み補助金の全額返還(加算金付き)等 | 他の用途への無断流用、虚偽報告など |
| 新事業進出・ものづくり(第1回) | 交付決定取消。交付済みの場合は加算金を課したうえで返還。悪質な場合は事業者名、不正を行った時点の代表者名、不正内容を公表 | 虚偽の申請による不正受給、取得財産の目的外利用、自己負担額を減額又は無償とするような販売方法、補助金受給額を不当に釣り上げ関係者へ報酬を配賦する |
| 省力化〈一般型〉(第8回) | 補助金の交付取消・返還、不正の内容の公表等。補助事業実施期間中に他の補助金で同様の行為等をした場合も、交付決定取消・返還を行うことがある | 他の用途への無断流用、虚偽報告など |
新事業進出・ものづくり補助金は、「経済産業省又は中小機構が所管する補助金又は給付金等において不正を行った事業者」を補助対象外としています。
雇用関係助成金の不正受給(共通要領)
厚生労働省の雇用関係助成金は、支給要領の第1 共通要領(令和8年4月8日現在)で不正受給の扱いを決めています。
| 項目 | 共通要領の決まり |
|---|---|
| 不正受給とは | 偽りその他不正の行為により本来受けることのできない助成金の支給を受け、又は受けようとすること。故意によらない記載誤りは不正の行為に該当しない。役員・従業員・代理人など申請に関わった者の不正は、事業主の不正とみなす |
| 請求される額 | 返還を求めた額+延滞金(不正受給の日の翌日から納付の日まで年3分。支給申請が令和2年3月31日以前なら年5分)+返還を求めた額の2割に相当する額 |
| 不支給措置 | 不支給とした日又は支給を取り消した日から5年間(平成31年3月31日以前の支給申請は3年間)、助成金を支給しない。不正に関与した役員等が役員となっている他の事業主にも同じ期間支給しない。請求金が全額納付されるまで期間を延長(時効が完成している場合を除く) |
| 公表 | 支給決定取消額等の合計が100万円以上で、返還を命じた日から1か月以内に全額納付されないとき、又は特に重大・悪質なときは、事業主の名称、代表者と不正に関与した役員等の氏名、事業所の名称・所在地、助成金の名称、返還を命じた額、不正の内容などを公表 |
| 公表の期間 | 不支給決定又は支給決定取消を行った日から5年が経過する日まで(未納なら全額納付を確認した日まで) |
| 社労士・代理人 | 不正受給に関与した社会保険労務士・代理人・訓練を行う者にも同じ額を請求し、氏名・事務所の名称などを公表 |
雇用関係助成金は申請の時点で、不正受給が発覚した際の事業主名等の公表や返還に承諾していることが支給の要件になっています(共通要領の不支給要件)。共通の要件は人を雇う・育てる助成金の全体像にまとめています。
計算例:100万円を不正に受給し、1年後に納付した場合
当サイトが共通要領の算式から概算します(延滞金は年3分で1年分として計算。日数の数え方や端数処理は含めていません)。
| 内訳 | 額 |
|---|---|
| 返還を求めた額 | 100万円 |
| 2割に相当する額 | 20万円 |
| 延滞金(100万円×年3%×1年) | 3万円 |
| 合計(概算) | 約123万円 |
2割に相当する額に延滞金が発生する場合は、その額も含まれます。さらに、不支給措置期間の5年間は、ほかの雇用関係助成金も受けられません。
会計検査院の指摘の例(令和6年度決算検査報告)
会計検査院は、中小企業基盤整備機構の補助金(事業再構築補助金、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)について、21の補助事業者等の事業で、機構の補助金3億8,199万5,762円を不当と認めました。このうち、ものづくり補助金の5件(3,738万2,667円)の内容は次のとおりです。
| 事態 | 事業主体 | 補助金 |
|---|---|---|
| 納品を受けていないのに受けたとし、実際に要した額を超える事業費を記載するなどした虚偽の実績報告書等を提出 | 2 | 1,766万1,110円 |
| 導入した機械装置を専ら他社に使用させ、事業計画書の事業を自ら実施していない | 1 | 1,000万円 |
| 処分制限財産を無断で交付の目的に反して使用し、廃棄するなどしていた | 2 | 972万1,557円 |
会計検査院は、中央会と155事業主体の172事業を対象に会計実地検査を行ってこれらを見つけています。補助金の支払い後にも検査が入ることは、各制度の公募要領も書いています(持続化補助金は「会計検査院や補助金事務局等が抜き打ちで実地検査に入ることがあります」)。
関連
出典
- 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(e-Gov法令検索)(確認日 2026-10-01)
- 小規模事業者持続化補助金〈一般型 通常枠〉公募要領 第8版(第20回)(確認日 2026-10-01)
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公募要領(第1回)1.3版 令和8年9月(確認日 2026-10-01)
- 中小企業省力化投資補助事業(一般型)公募要領(第8回公募)(確認日 2026-10-01)
- 雇用関係助成金支給要領 第1 共通要領(令和8年4月8日現在)(確認日 2026-10-01)
- 令和6年度決算検査報告 独立行政法人中小企業基盤整備機構 不当事項(247)〜(271)(会計検査院)(確認日 2026-10-01)
よくある質問
書類の書き間違いも不正受給になりますか?
雇用関係助成金の共通要領は、支給申請書に事実に反する記載があった場合でも、その記載誤りが故意によらないものと認められる場合は不正の行為には該当しないとしています。一方で、代表者のほか役員・従業員・代理人など申請に関わった者が偽りその他不正の行為をした場合は、事業主が不正の行為をしたものとみなします。
不正受給をすると、ほかの補助金も受けられなくなりますか?
新事業進出・ものづくり補助金(第1回)は「経済産業省又は中小機構が所管する補助金又は給付金等において不正を行った事業者」を補助対象外としています。雇用関係助成金は、不正受給をした事業主に、不支給とした日又は支給を取り消した日から5年間、助成金を支給しません。
この記事の更新
- 2026年10月1日初版。補助金適正化法(2025年6月1日施行の条文)、3制度の公募要領、雇用関係助成金の共通要領(令和8年4月8日現在)、会計検査院の令和6年度決算検査報告から作成
同じテーマの記事
- 申請の基礎NPO法人・一般社団法人が使える補助金:持続化補助金は一般社団法人が対象外、NPO法人は条件付き。国の4制度と雇用関係助成金、助成財団の探し方NPO法人(特定非営利活動法人)と一般社団法人が国の補助金を使えるかどうかは、制度ごとに公募要領の「対象者」で決まっています。持続化補助金は一般社団法人を対象外とし、NPO法人は収益事業を行い認定NPO法人でない場合に限って対象になり得ます。デジタル化・AI導入補助金は社団法人・NPO法人も中小企業等に含めます。省力化投資補助金(一般型)と新事業進出・ものづくり補助金は社団法人を対象外とし、NPO法人には経営力向上計画の認定など5つの要件を求めます。雇用関係助成金の「事業主」は法人格を問いません。民間の助成財団の探し方もまとめました。
- 申請の基礎パートナーシップ構築宣言とは:宣言企業は10万8,181社、登録から公開まで約10日、補助金の加点での扱いパートナーシップ構築宣言は、取引先との共存共栄と「振興基準」の遵守を、代表権のある者の名前で宣言してポータルサイトに公表するものです。登録企業数(2026年10月1日時点で10万8,181社)、登録の3つのステップと公開までの日数、2026年1月からの公表要領と掲載取りやめのルール、補助金の公募要領での扱い(新事業進出・ものづくり補助金の加点、省エネ補助金の評価項目など)をまとめます。
- 申請の基礎フリーランス・副業の人が使える補助金はある? 個人事業主として開業していること・確定申告の書類・従業員の要件を公募要領で確かめるフリーランスや会社員の副業で事業をしている人が国の補助金を使えるかは、「個人事業主として開業しているか」「確定申告書・納税証明書を出せるか」「従業員がいるか」で決まります。持続化補助金は開業前の人を対象外とし、デジタル化・AI導入補助金は確定申告書の控えと所得税の納税証明書を求め、新事業進出・ものづくりと省力化投資(一般型)は従業員0名を対象外とします。当サイトが確認した公募要領に、副業かどうかで対象を分ける記載は見当たりませんでした。フリーランス・事業者間取引適正化等法は補助金とは別の制度です。
- 申請の基礎事業再構築補助金の事後手続き:実績報告・事業化状況報告(5年間)・財産処分・収益納付と、報告しないと返還になる決まり事業再構築補助金は新しい公募を終えましたが、採択された事業者の手続きはまだ続いています。補助事業が終わった後の実績報告(30日以内か期間の末日の早い方)、年度末の翌年度から5年間の事業化状況報告、単価50万円以上の財産を売る・貸す・既存事業に使うときの財産処分、収益納付の計算式、賃上げ要件を満たせなかったときの返還を、事務局の公式ページと補助事業の手引き(第12〜13回向け 1.2版)から整理します。
- 申請の基礎事業化状況報告と収益納付とは:補助金をもらった後の報告の回数・期限と、「収益納付は求めません」の制度との違い(持続化・新事業進出ものづくり・ものづくり・省力化)補助金の入金で手続きは終わりません。新事業進出・ものづくり補助金は5年間で計6回の事業化状況報告、省力化投資補助金〈一般型〉は5年間の効果報告、持続化補助金は1年後の事業効果等状況報告が必要です。報告の回数・期限・出さなかったときの扱いと、補助事業で得た収益の一部を納める「収益納付」の記載を、制度ごとに表で比べます。
- 申請の基礎事業承継・M&Aで使える補助金と支援:国の補助金・引継ぎ支援センター・事業承継税制・市町村の奨励金を並べる事業承継やM&Aのときに使える公的な支援を、お金の出方で4つに分けて整理します。国の事業承継・M&A補助金(16次公募の申請受付は2026年10月2日〜11月6日17:00)、中小機構の事業承継・引継ぎ支援センター(親族内承継・第三者承継・後継者人材バンク)、国税庁の法人版事業承継税制(特例承継計画の提出は令和9年9月30日まで)、市町村の奨励金・補助(茅野市の10万円、いわき市の診療所の承継)の違いと、確かめる順番をまとめます。